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金型製作1万超の技術力。研究開発に注力し、独創性あるメーカーを目指す。

八州製作株式会社
代表取締役 瀬古 知里

更新日:2025年6月04日

高校までを岐阜県で過ごし、関西の大学に進学。卒業後は三井住友海上火災保険株式会社に入社し、岐阜の営業所で事務職として9年勤務。その後、取引先である販売代理店への出向を経験。出向先では社長を支える立場でM&Aなど多様な業務をサポートする。そうした経験を通じ、「言われたことをやるよりも、自分で考えて動く方が面白い」と感じるようになり、出向期間の終了に伴い同社を退職。2020年4月、父が経営する八州製作株式会社に取締役として入社する。同年7月には、父から代表権を受け継ぐ形で代表取締役に就任。技術のことがわからず苦労しながらも、自身ならではの観点から会社の改革や事業推進に取り組む。2024年には、初めてトライアスロンに挑戦。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

もっと面白い仕事ができそう、と八州製作に転職。

私の祖父にあたる瀬古薫が、八州製作を創業したのは1963年。以来、金型メーカーとして着実に歴史を刻み、累計1万型の金型を世に送り出してきました。今日、事業の中核となっているのは、自動車部品を製造するのに欠かせないダイカスト金型や治工具です。設計から製作までの一貫生産体制を整え、年間280型の金型を供給できる生産力が当社の強みです。

2代目社長である父・瀬古政義(現会長)の後を継ぎ、私が3代目の社長に就任したのは、コロナ禍が始まった2020年でした。以前、私は損保会社で事務職として勤務していました。そんな私が八州製作への転職を考え始めたのは、損保の販売代理店への出向を経験したからです。

損保会社では事務職として、指示された業務をこなしていれば十分でした。しかし中小規模の販売代理店ではそうはいかず、社長の右腕のような立場であらゆる業務を経験させてもらいました。その4年間がダイナミズムに富んでいて、とても面白かったのです。出向が終わって本体に戻るより、もっと充実感を味わえる仕事があるのではないかと、その時に気づきました。

そして本体に戻るのは止め、退職を決意。新たな道に進みたいと思った時、父の営む八州製作という会社が自分のキャリアに現れてきたのです。最初は反対していた父もやがて了承してくれ、2020年4月、八州製作に取締役として入社することになりました。

入社後、しばらくは現場で社員の皆に金型づくりを教わっていたのですが、すぐに父が「次の決算である7月に代表を替わろう」と言ったのです。コロナ禍で取引先に挨拶も行けず、社員の皆にも「急に社長をやることになった」と説明し、そこから登記の変更も始めてバタバタの就任でした。

当時はなぜこのタイミングだったのか分からなかったのですが、後から父に聞くと「畑違いから専門知識がないのはわかっているし、外形だけ取り繕っても始まらない。やるなら代表権を持ち、責任を持ってやれ」という考えだったようです。父は会長として今も働いていますし、経営については今もアドバイスをもらえる状態にあります。

やりがいと誇りの持てる会社にするのが、私の務め。

現場経験がほとんどなく社長に就任したので、技術のことは、いまだにわからない部分が少なくありません。今後の会社づくりを考えると、やはり社員が主体となって会社を動かしていくことが一番でしょう。

私は社長ですが、会社の中で「経営」という一つの役割を担っているに過ぎない、と考えています。私一人で会社が動かせるわけでもなく、現場の社員にものづくりしてもらわないと事業が成り立たないのですから、どっちが偉いという話でもありません。私がやるべきなのは、社員が働くために良好な環境を整えること。そして業績や情勢を見極め、経営判断することです。

金型づくりは全員のリレーが不可欠です。会社組織の川上から川下まで流れて、ようやく金型が完成します。一つの金型は100もの部品から構成されていて、すべて内製しているため、工程管理が非常に煩雑です。ですから大手の金型メーカーであっても、生産管理を効率化するのは難しく、現場の社員同士の細かな調整に支えられているという側面があります。

しかし、「生産管理のやり取りが口頭で行われ、決まっているのは最終納期だけ」という状況では、社員が余裕を持って仕事に取り組めません。現場のチームワークが発揮されないとさまざまなひずみが出て、各職場のリーダーに過度な負担をかけることになります。ここを整備して、もう少しシステマティックにしていけば、社員がもっと仕事に集中できると考えています。

金型は、「原価の半分が技術」と言われるほど、技術者の腕がものをいう世界です。その技術者たちが言われたことを淡々とこなす作業者になってしまっては、金型の品質に関わります。現場で汗を流す社員は全員優秀な技術者ですし、その技術に見合ったやりがいと誇りを持てる会社にしたい。そのための環境づくりが私の役目です。

独自性ある金型づくりができるかどうかが重要。

ダイカスト業界では、「ギガキャスト」という流れが起こっています。従来は細かな部品を一つずつ作り、それらをアセンブル(複数の部品を組み立てて最終形にする工程)して一つの機構を生み出し、最終的に集合体である車として完成させるのが一般的な流れでした。

ギガキャストとは、複数の部品を大型のダイカストマシンで一体鋳造する手法です。こうすれば、細かな部品を一つずつ作って溶接やボルト接合する手間を大幅に削減できます。

中国では、自動車の車体を2~3に分割し、それぞれをダイカストマシンで一体成型する手法が既に始まっています。ギガキャストになると細かな部品は不要となり、それらを作るための金型もいらなくなります。中小の金型メーカーとしては、楽観視できる状況ではありません。

ただ、ギガキャストが主流になったとしても、どうしても用意しないといけない複雑で細かなパーツや、電動車など特殊な条件で求められる部品までなくなるわけではありません。こういった一体成型で難しい部品の金型を提供できるメーカーとなれば、ギガキャストの流れに飲み込まれることはないでしょう。

つまり、複雑な形状を上手に作れるとか、放熱性が高くて内部に巣(空洞)が発生しにくいといった、特徴ある金型を作れるかどうかが今後、非常に重要になってくるわけです。

これまで当社がやってこられたのは、当社の作り出す金型の品質を認めてくれるお客さまがいたからです。いわば、当社の先人たちが技術という財産を残してくれ、それを今の社員が受け継いでくれているおかげで、事業を継続できているのです。

この素地が残る間に、次の世代につながるノウハウを生み出していかなければなりません。そんな想いが、研究開発への取り組みにつながっています。今、特に力を入れているのが流動解析ソフトの導入と活用です。

流動解析ソフトで、お客さまを助ける設計提案を。

流動解析ソフトを用いると、金型の中で流体の流れや温度変化、流体の固まる様子をパソコン上の3D空間でシミュレーションできます。今までは実際金型を作り、量産機でテストして良し悪しを判断し、悪い部分を直す、という流れで業務を進めていました。

テスト結果を見て、「こうすれば良くなる」と判断できるのは、経験のなせる業です。それをできる点が当社の強みになっていましたが、社内の属人的なノウハウに頼るやり方だけではギガキャストという大きな流れに対抗できません。流動解析ソフトによって状況を可視化し、根拠のある設計を提案できるようにしていきたいのです。

もちろん、ソフトを導入しただけでそういった提案ができるようになるわけではなく、データを蓄積し、AIも活用し、高精度な結果を出せるようにしなければなりません。そこで、お客さまと協働して、また岐阜大学の研究室にも力を貸してもらい、解析精度を上げる努力を続けています。

これができるようになれば、「お客さまの指示を受けて金型を作る」外注業者ではなく、「より上流工程から入り込み、お客さまと一緒にものづくりしていく」パートナーへと変わっていくでしょう。お客さまの側も、現場叩き上げのベテラン層が高齢化で減少してきました。技術伝承がうまくいかず、従来のようにものづくりが進まない、と悩んでいる取引先が増えているようです。

そこで、流動解析ソフトによる提案ができれば、お客さまも助かるのではないでしょうか。「ここはこういう寸法であるべき」と根拠の明確な提案があれば、お客さまも判断しやすくなります。そういった提案のできる会社が、今後ますます重要視されるはずです。

会社の発展には「よそ者」の吹かせる風が不可欠。

人事制度の改革にも着手しています。今までは「何が評価の対象なのか」「昇進によって処遇はどうなるのか」といった評価基準が明確ではありませんでした。それでも給与水準は高めなので不満が出ることはなかったのですが、「自分の何が評価されているのか」社員は知りたいはずです。

教育制度も整備します。従来はOJTが中心で、制度化された教育はありませんでした。現場の作業だけならそれでも回るのですが、会社全体で一つの目標に向かうという風土の醸成につながりません。物事の考え方、コミュニケーションの取り方、コンプライアンスといった組織としての基本は、体系的に学べる仕組みを作っていく必要があります。

私が最も重視したいのは、チームワークを大事にすることです。そして社員の皆がやりがいを抱き、努力が会社の発展につながる。そんな会社づくりをするのが私の務めだと捉えています。そのためには、まだまだ多くの人材が必要です。

よく「よそ者が変える」といった言い方をしますが、私自身もよそ者でした。父が私を受け入れた理由も、「よそ者だからこそできることがある」と考えたからではないかと思います。

先日、新たな中途採用者を迎えたのですが、彼は入社一週間で「八州製作にはこういう良い点がある。でも前の会社でやっていた取り組みは、八州製作でも実践できるのではないか」と提案してきました。

やはり社内にいては見えないことがたくさんある、外の風を入れるのは大事なのだと実感したものです。技術系、管理系など、経験分野は問いません。一緒に独自性のあるものづくりがしたいという意欲のある方をお待ちしています。

編集後記

チーフコンサルタント
清原 和浩

今回のインタビューを通じて、八州製作社が金型製造の伝統を礎にしながらも、流動解析ソフトなどの先進技術を取り入れ、自社の変革に果敢に挑まれている姿勢に深い感銘を受けました。

現場経験のない中で社長に就任された瀬古社長が社員の声に真摯に耳を傾け、自らも学びを重ねていく姿勢から、次代を担う経営者としての真摯な覚悟と柔軟な視点が感じられました。

同社がものづくりの現場から描き出す未来に共感し、共に挑みたいと思う方が現れることを心より願っております。

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